まりふのひと

e-Japan“背水の陣”にほのかな期待

このコラムでも何度か書いてきたが、文部科学省は現在、政府のe-Japan戦略を受けて教育の情報化プロジェクトを推進している(2005年3月28日号焦点「大言壮語かe-Japan、期限はあと1年!」)。そこでは2005年度末までの校内LANの整備、各学級2台のパソコン配備、すべての教員におけるITを活用した授業の実践が目標になっていて、達成度は文部科学省が毎年3月末に行っている「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」の結果で知ることができる。しかし、2004年度末の調査結果は、だれが見てもあと1年で目標を達成できるとは思えないものだった。

文部科学省必死のテコ入れ

そこで文部科学省は最終年度末に向けて少しでもいい数字を期待したのか、今年は9月に中間調査まで行った。しかし、残念ながら劇的な向上は見られず、普通教室のLAN整備率は全国平均が48.8%、1位の岐阜県でも89.4%止まり、下は奈良県の18.9%、東京都の19.5%と続く。
文部科学省としても、目標を達成できない見通しが強くなったことから、昨年12月6日に文部科学大臣名で「教育の情報化のための緊急メッセージ」というものを宣言した(http://www.mext.go.jp/b_menu/soshiki/daijin/kosaka/05120801.htm)。そこで目標達成に向け、各地方公共団体にラストスパートをかけるよう依頼するとともに、教育の情報化を加速化させるため、次のような「教育の情報化の推進のためのアクションプラン」を発表した。

  1. 大臣と先頭として、整備率の低い都道府県および市町村に直接働きかけを行い、目標の達成に向けた取り組みの強化を促す。
  2. 2006年3月を「教育の情報化強化月間」として定め、ネットデイを開催するなど教育情報化の一層の推進を図る。
  3. ITを活用した授業の理解促進を図るため、情報担当の指導主事や教員、教員を目指す学生などをたいしょうとした模擬授業などのキャンペーンを実施する。
  4. 教育の情報化に関する効果的な実践事例をまとめ、その成果を普及することにより、地方恐恐団体の取り組みを強く促す。

このプランは単に機器や環境の整備だけでなく、情報教育やIT活用学習の普及も強く意識している点で大変意味がある。情報教育やIT活用の成果を前面に出すことで行政の担当者を納得させて情報化を進める作戦だからだ。

情報教育とIT活用は違う

しかし、ここでいう「情報教育」と「IT活用」が少々クセモノである。意外なことだが、この二つのキーワードに関する認識について、」多くの教員や行政関係者が混乱しているのが現状だ。
「情報教育」とは、一言で言えば情報活用能力を育てる教育である。多くの情報から目的に合った情報を選択し・収集・編集して自分なりの表現をし、分かりやすく人に伝える力であり、社会で求められている新しい学力といえる。
一方の「IT活用」は、国語や社会などの従来の学力をより深く理解させたり、学習を効率化させたりするためにITを利用することにほかならない。
教育の情報化はこの両輪をもって推進しなければ、なかなか行政の腰を動かすことはできないだろう。小学校に学習指導要領には「情報教育を進める」という記述がないのでなかなか情報教育の普及はむつかしいのだが、教科の学習を通してでも情報活用能力を育てることはできる。教科でITを活用する際に、教師が教科のねらいだけでなく情報活用能力の育成も意識して授業をデザインするばよいのである。一つの授業に二つのねらいがあると考えれば分かりやすいと思う。それをしなければ、先のアクションプランもまた机上の空論で終わってしまうかもしれない。

私たち教師にできること

環境を整備してくれない行政を批判したり、あきらめては絶対に進歩はない。私たち教師が勝負できるのは、やはり授業である。地道に情報活用能力を育て、IT活用を実践して成果を出していくことで行政は必ず動くと信じたい。「最終年度」と思わず、「ここからが本気でスタート」と考えようではないか。